トロントで働く日本人のためのAI活用入門|「Google検索と何が違うの?」から始める使い方
- Anna Shimizu

- 7月20日
- 読了時間: 7分

「AIが便利だとは聞くけれど、正直、何に使えばいいのか分からない」
トロントで日本人の方とお話ししていると、この声を本当によく聞きます。ChatGPTを開いてみたものの、「おはよう」と話しかけて終わってしまった。何度か質問してみたけれど、欲しい答えが返ってこなくてがっかりした。
そう感じているなら、あなたのせいではありません。ほとんどの人が同じところでつまずいています。 そして、つまずいているポイントは驚くほど共通していることがわかりました。
私は金融業界で、マーケティングと社内のAI活用を担当しています。今でこそ毎日の仕事にAIを使い、他の社員の方にも使ってもらえるように活動していますが、最初からうまくいったわけではありません。みなさんと同じところで、何度もつまずき、七転八倒しながらAIとともに成長してきました。
この記事では、その最初の壁を越えるための考え方を、トロントで働く日本人の実際の仕事に沿ってお伝えします。
いちばん多い質問がこれです。そして、この違いを理解しないままだと、AIはずっと「Google検索の劣化版」になってしまいます。
Google検索は「探す」道具、AIは「作る」道具
Google検索は、すでに世の中にある答えを探してくる道具です。「トロント 家 売り方」と検索すれば、誰かが書いた記事の一覧が出てきます。
AIは違います。あなたの状況に合わせて、その場で新しく作る道具です。「トロントのミッドタウンにある築30年のコンドを、40代の日本人ファミリー向けに紹介する文章を書いて」——こう頼めば、世の中のどこにも存在しなかった文章が出てきます。
つまり、こういう使い分けになります。
AIに「調べもの」だけをさせていると、Google検索の下位互換にしか見えません。 本領は「作らせる」ときに発揮されます。
とはいえ、作らせようとしても微妙な答えしか出てこない。これも非常によくある悩みです。
原因はほぼ一つで、質問が短すぎることです。

上の例では「集客の方法を教えて」と聞いています。返ってきたのは、返ってきたのはSNS運用、Googleマップ、広告といった教科書どおりの6項目でした。間違ってはいませんが、明日から動ける内容ではありません。注目したいのは最後の一文。AIが「もし業種を教えていただければ」と聞き返しています。 つまりAIの側も、情報が足りないと分かっているのです。
解決策:プロンプト3原則
「プロンプト」とは、AIへの指示文のことです。難しく考える必要はなく、次の3つを足すだけで答えの質が変わります。
役割 — AIに誰になってもらうか 例:「あなたはトロントの日系顧客を担当するマーケターです」
背景 — あなたの状況 例:「私は個人でサービスを提供していて、顧客は40代の日本人。広告予算は月100ドルです」
アウトプット指定 — どんな形で欲しいか 例:「明日から実行できる施策を3つ、手順つきで出してください」

同じAI、同じ話題です。変わったのは聞き方だけ。
Facebook広告の配信エリアを「Toronto +30km」、年齢を40〜59歳、言語を日本語に設定する——という設定画面で今すぐ操作できるレベルまで具体化されました。さらに月100ドルをどう配分するかの表まで出てきています。
差を作ったのはAIの性能ではなく、こちらの伝え方。 逆に言えば、この3つを覚えるだけで、今日から結果が変わります。
「業務効率化」と聞くと会社員の話に思えますが、実際にいちばん効くのは、一人で幅広い作業を抱えている方です。
リアルター(不動産エージェント)
リスティングの説明文を、物件情報を渡すだけで3パターン作らせる
内見後のフォローメールを、相手の反応に合わせて書き分ける
日本語の問い合わせを英語に、しかも業界の言い回しで翻訳する
保険エージェント
商品の説明を、相手の年齢・家族構成に合わせて言い換える
提案書のたたき台を作らせ、自分は確認と調整だけに集中する
難しい専門用語を、お客様が納得できる日常の言葉に翻訳する
ビジネスオーナー・フリーランス
SNS投稿、請求書の文面、見積もりの説明といった雑務をまとめて片付ける
人を雇う前に、自分の作業をどこまで減らせるかを検証する
子育て世代
学校から届く英語のメールを訳し、返信の下書きまで作らせる
冷蔵庫にあるもので作れる献立を、家族の好みを伝えたうえで提案させる
就職活動中の方(ワーホリ・学生)
求人票を貼り付けて、その企業向けにレジュメを最適化する
カバーレターを、日本語の経歴からカナダ式に書き直す
想定される面接質問と、自分の経歴に沿った回答例を作る
投資・資産運用に関心のある方
長い英文レポートやニュースを、要点だけ日本語で要約させる
知らない金融用語を、自分の理解度に合わせて説明させる
自分の投資アカウントとAIを連携して投資分析を行う
自分の職種の欄を見て「これ毎週やっている」と思ったなら、そこが最初の一歩です。
無料で使っていると、数回のやり取りで制限がかかる。これで嫌になってしまう方も多いはずです
これはモデルの使い分けを知らないことが原因です。AIには賢いけれど制限の厳しいモデルと、軽くて制限のゆるいモデルがあり、多くの人が簡単な作業にまで一番重いモデルを使ってしまっています。
翻訳や短い文章の手直しなら軽いモデルで十分です。用途に応じて切り替えるだけで、体感の使える量は大きく変わります。

「情報漏洩が心配で使えない」という声もよく聞きます。これは正しい警戒心です。押さえるべき原則はシンプルで、「この情報は友達や家族に送れるか?」と自分に問いかけてみてください。お客さんの詳細情報を家族に伝えますか?自分の口座情報を友達に伝えますか?
AIに聞く場合は、入力した内容が学習に使われる可能性がある前提で扱うことが大切です。
最低限、次のものは入力しないでください。
お客様の個人情報(氏名、住所、SIN、生年月日など)
契約書や社内資料など、公開されていない書類そのもの
パスワード、口座番号、クレジットカード情報
ただし、これは「使うな」という意味ではありません。名前を「Aさん」に置き換える、金額をぼかすといった一手間で、ほとんどの業務は安全に扱えます。ツールによって設定でオフにできる項目もあります。
ここまで読んで「言うのは簡単だけど」と思われたかもしれないので、私の実際の使い方をお話しします。
私が働いているのは金融業界です。この業界は、書ける表現が法律で細かく決まっています。 金融商品の広告には表示のルールがあり、うっかり断定的な言い回しをすれば、それだけで問題になります。加えて、会社としてのブランドの言葉遣いやトーンもある。つまり、AIに文章を書かせるには一番やりにくい環境です。
そこで作ったのが、AIに「社内のルールブック」を持たせる仕組みです。
ブランドのトーン、使ってはいけない表現、法令上の注意点、SEOの要件——これらをまとめてAIに読み込ませておきます。すると、記事を書かせたときにAIが自分でチェックを走らせ、「この表現は規制に触れる可能性がある」「ブランドのトーンから外れている」と自己採点してから原稿を出してくるようになります。
私がやっているのは、そこから先の判断だけ。ゼロから書いて、あとで全部確認するという作業が、方針を決めて、確認するだけに変わりました。年間で100時間以上の時間を削減しました。
そしてここが大事な点なのですが——この仕組み、特別なものではありません。
やっていることは、この記事の前半でお話しした「役割・背景・アウトプット指定」と同じです。毎回入力する代わりに、一度AIに覚えさせておくだけ。規模が大きいので複雑に見えますが、原理はまったく同じです。
同じ考え方で、たとえばこんなものが作れます。
リアルターの方なら、自分の物件紹介の書き方を覚えたAI
保険エージェントの方なら、自社商品と説明の言い回しを覚えたAI
子育て中の方なら、家族構成と好みを覚えた献立AI
一度作れば、毎回ゼロから説明する必要がなくなります。セミナーでお話しするのは、まさにこの部分です。
文系プログラミング知識ゼロ、数学が大の苦手の、この私でも、ここまでのツールが作れるのかと感動しました。私は、みなさんにも自作のツールを動かせる喜びと感動を感じてほしいのです。

ここまで読んで、「なんとなく分かったけれど、自分の仕事に落とし込めるかは自信がない」と感じたなら、それが普通の反応です。
AIは、読んで理解するだけでは身につきません。自分の作業で一度やってみて、動いた瞬間に初めて使えるようになります。この「動いた!」という感覚が大事なのです。
Miyaco Connectでは、その一歩を一緒に踏み出すためのセミナーを開催します。セキュリティの基礎、この記事で触れたプロンプトの実践、そして「毎回ゼロから説明しなくていい自分専用AI」の作り方まで。当日は、参加者の方から事前にいただいた実際のお困りごとを、その場でAIに解かせるライブデモも行います。
そして参加を迷っている方も、「面倒だと感じている作業」を一つだけ教えてください。 当日のデモの題材として取り上げます。あなたの仕事が、そのまま教材になります。







